「調停」と聞くと、離婚調停のような、何か揉め事があった際に話し合って解決している様子をイメージする方が多いのではないでしょうか。
新たな民事調停手続として2019年10月1日から知財調停手続が導入されました。今回は、知財調停制度について、費用やメリット・デメリットなど、具体的な情報を含めて解説します。
記事の後半では、知財調停以外にどのような調停があるのかについても紹介します。
そもそも調停とは?
調停とは、私人間での紛争を解決するために、裁判所が仲介して当事者間の合意を成立させるための手続です。
どちらか一方が勝つような裁判と異なり、調停は話合いにより当事者が合意することで紛争の解決を図ります。
この話し合いには、当事者の間に調停委員や裁判官といった中立な立場の専門家が入ります。そのため、合理的に話し合いを進め、当事者同士が歩み寄り両者とも満足する紛争解決を目指すことができます。
調停の合意事項は、判決と同一の効果を持ち、強制執行をすることもできます。調停で合意に至らない場合には、訴訟提起をして判決による紛争解決を図ります。
調停委員とはどんな人?
調停委員は、弁護士、医師、大学教授、公認会計士など、豊富な知識経験や専門知識を持つ人の中から裁判所が選びます。原則として、調停委員は40歳以上70歳未満の人が選ばれます。
和解や示談との違いは?
当事者同士で話し合って紛争解決を図る制度としては、調停のほかに和解があります。
和解は、民法695条によって規定されている和解契約という契約の一種で、裁判上の和解と裁判外の和解があります。
裁判上の和解をするには、調停と異なり訴訟提起が必要です。また、裁判上の和解が成立し和解調書が作成されると、確定判決と同一の効力が生じることになります。
示談も当事者同士の話し合いにより紛争を解決する手段ですが、裁判所という第三者が介入しない点で調停と異なります。
知財調停とは?
知財調停は、民事調停法に基づく新たな調停手続です。以下では知財調停の対象事件や手続の流れなどを説明します。
管轄や対象事件
知財調停は、特許や商標など企業にとって重要な資産となる知的財産権について、争いの実情に応じた柔軟な解決を目指すべく、2020年10月に開始しました。
2022年10月現在、管轄は東京地方裁判所と大阪地方裁判所のみです。
対象となる紛争は、特許権・商標権・著作権などの侵害、不正競争防止法違反をめぐる紛争など、知的財産権に関するものとなっています。具体的事例としては、著作権侵害の有無、営業秘密の不正取得等の有無、ライセンス料に関する紛争事例などがあります。
特徴
知財調停における調停委員会は、知的財産権に関する審理を専門的に行う裁判所知財部に所属する裁判官による調停主任1名、裁判官OBや弁護士、弁理士などから選任された調停委員2名により構成されます。
メリットとして後半で詳しく説明しますが、知財調停の特徴は柔軟かつ迅速に紛争を解決できる点や、費用が抑えられる点、さらに非公開で行える点にあります。
件数はどれくらい?
東京地方裁判所委員会報告によると、知財調停の新受件数は2019年10月1日~2020年9月30日の1年間で9件、2020年10月1日~2021年3月31日の半年間で9件でした。
このように1年で10件に満たない知財調停ですが、知的財産高等裁判所によると、そもそも知的財産権関係民事事件の新受件数は令和2年度で69件、令和3年度で103件と多くありません。また、令和元年10月に開始したばかりの制度なので、今後利用が増えるのではないでしょうか。
知財調停の流れ
申立てによって開始する知財調停は、当事者間の事前交渉を前提に、原則として第3回調停期日までに調停委員会が見解を示します。以下は裁判所が公表している審理モデルの要約です。
裁判所に対して調停申立て
↓
第1回調停期日までに両当事者の主張と関連する証拠を提出
↓
第1回調停期日で当事者の意向や要望を聴取
↓
第2回調停期日で意向の聴取や調停案の検討を行う
↓
第3回調停期日で調停委員会の見解を口頭で開示
↓
調停が成立すれば終了、続行する場合は第4回以降期日を設ける
調停不成立なら自主交渉や訴訟へ
知財調停を利用するメリットとデメリット
訴訟との違いを踏まえながら、知財調停を利用するメリットとデメリットをみていきましょう。
メリット
実情に合った円満解決
知財調停は、前述のとおり当事者同士の話合いによって柔軟に紛争を解決することを目的としています。
訴訟により紛争解決をする場合、当事者一方のみの主張が認められ、必ずしも実質的な解決が実現しない可能性もあります。
しかし、知財調停においては当事者が解決したい紛争を自由に設定でき、また専門性の高い調停委員会により手続が進められます。そのため、柔軟であることに加えて、訴訟に劣らない合理的な審理が行われます。
訴訟に比べて費用が安い
知財調停の場合、申立手数料47,620円、期日1回につき期日手数料47,620円、和解契約作成所や立ち合い手数料142,858円(金額はすべて税抜)を日本知的財産仲裁センターに支払うほか、実費等を負担します。
これに対して訴訟の場合、1000万円以上費用が発生することもあります。そのため、知財調停を利用することで費用を抑えることができます。
比較的短い期間での解決
知財調停は、申立から半年以内に完結することを目安とされています。
訴訟提起をして紛争解決を図る場合、判決が出るまでに1年以上を要することがほとんどです。判決を待つ間、問題となっているアイデアを活用してビジネスを行うこと等ができないのは、当事者にとって大きな不利益となってしまいます。
そのため、知財調停を利用することで、訴訟より半年以上早い紛争解決が期待できます。
非公開で行われる
訴訟提起をして紛争解決を図る場合、憲法82条により原則として裁判は公開されなければならないため、第三者に秘密情報が知られるおそれがあります。
特に知的財産権の紛争に関しては、企業秘密や特許等、第三者に知られると大きな不利益となる情報が多く扱われるため、紛争内容が公開されることは避けたいと考える人が多いといえます。
しかし、知財調停においては申立の有無も含めて手続が非公開となっているため、第三者に企業秘密等が公開されるおそれがありません。そのため、情報公開のリスクなく紛争解決を図ることができます。
デメリット
知財調停ないし民事調停が持つデメリットも踏まえておく必要があります。
紛争解決の確実性
被告が欠席した場合に原告の請求を認めたとみなし判決が出る訴訟と違い、民事調停においては相手が欠席すれば話合いができず、強制的に出席させることもできません。
そのため、両方の当事者が話合いをする意思を持っていなければならず、一方当事者のみでは結論を出すことができないというデメリットがあります。
結局訴訟になるかもしれない
調停で解決できれば費用を抑えることができますが、上記のように当事者の両方が出席し話し合いしなければならない以上、結論が出ずに訴訟を余儀なくされるおそれがあります。
その場合、調停と訴訟の両方を行うこととなり、結局長い時間と費用が掛かることになってしまいます。
調停にはほかにどのような種類がある?
調停には、対象となる事件に応じて、民事調停、特定調停、家事調停などがあります。
民事調停とは?
民事調停は、民事調停法により規定されている、家事・刑事事件以外のすべての法律上の紛争を対象とする紛争解決方法です。
民事調停で扱われる紛争としては、金銭の貸し借りや交通事故の損害賠償、騒音や日照権など近隣トラブル、セクハラ・パワハラの問題など様々なものがあります。
特定調停とは?
特定調停は、サラ金やクレジットなど借金の返済に苦しむ債務者と債権者の間で、返済できる現実的な金額などを調整するものです。
相手方1人あたり申立手数料が500円で済むので、借金額を減らすために債務者が利用しやすい制度といえます。
家事調停とは?
家事調停は、夫婦・親子・親族など家庭に関する紛争を対象としており、家事事件手続法などにより規定されています。例えば、離婚や相続に関する争いは家事調停が扱う紛争です。
まとめ
・知財調停は、非公開で迅速かつ費用を抑えた紛争解決が期待できます。
・しかし、話合いが基本であるため、結局訴訟になるなど、確実性に欠けるともいえます。
・新しく導入された制度であるため、今後利用件数が増え、新たな問題点や利点が明らかになる可能性があります。