発明の抽出・創造やスタートアップ支援に強い特許事務所として顧客からも業界からも高い評価を集める弁理士法人IPX。
今回は、弁理士法人IPX 代表弁理士COO/CTOである奥村 光平氏にお話を伺った。
【経歴】
- 早稲田大学理工学部応用物理学科 卒業
- 東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻 修士課程修了
- 東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻 博士課程修了
- 日本学術振興会特別研究員 (DC2&PD)
- 鈴榮特許綜合事務所 特許技術者
- 都内特許事務所 弁理士
- 弁理士法人 IPX 代表弁理士COO/CTO
【資格(学位)】
- 弁理士
- 博士(情報理工学)
- TOEIC公開テスト 920点
- 実用英語技能検定試験 準1級
- 韓国語能力試験4級(中上級)
- 実用数学検定1級(計算技能)
- Autodesk Fusion 360 Certified User
【留学】
- 韓国(ソウル)の特許事務所 (2017)
事務所の3つの強み
弁理士法人IPXの方針として、事務所としての強みをしっかり掲げようということで、「発明創造」「質速両立Ⓡ」「グローバルネットワーク」の3つを打ち出しています。
「グローバルネットワーク」について
私と、共同経営者・押谷とは、前職で同じ特許事務所に所属していました。
弁理士法人IPX 代表弁理士 CEO押谷 昌宗氏:https://ipx.tokyo/member/masamune_oshitani/
前職の事務所は外国出願を強みとしており、そこでの経験はそのままIPXでも強みとして打ち出せるなと考えました。日本の代理人はあくまでも日本知財の専門家というのが本来の筋なので、海外出願に関しては現地の信頼できる代理人との提携やネットワークの充実が重要です。そうだとすると「外国出願に強い」というありきたりな打ち出し方よりも、「海外の信頼できるネットワーク」を打ち出した方がよいということで「グローバルネットワーク」を強みの1つとして掲げたという経緯です。
「発明創造」について
「発明創造」「質速両立Ⓡ」は約2年ほど前から掲げています。弊所が設立6期目ですので、4期頃からということですね。
大規模事務所は大企業をクライアントとする事が多く、大企業の場合はしっかりとした知財部がありますので、社内知財部が開発部とコミュニケーションを取り、発明抽出を行うケースが多いです。その場合は特許事務所の業務は最終的な明細書作成が中心になりますね。
つまり、発明抽出は社内知財部、その後の明細書作成は特許事務所、という棲み分けになります。
一方で知財部がない中小企業やベンチャーは、特許事務所側が知財部に近いような発明抽出の部分から行い、その上で明細書作成も行うという、2プロセスを担っている現状があります。
明細書(ドキュメント)を作成するのは得意だけれども発明抽出はなかなかできないであるとか、発明抽出が行われていない状態だとうまく明細書が作れないという方も世の中にはいらっしゃいます。一方で発明抽出の段階から携わっているにも関わらずその点を事務所弁理士側も強みとして発信していないのが気になっていました。本来知的財産部という専門部隊が行うほどの重要なタスクですし、明細書作成と発明抽出は別々の業務ですから、中小企業やベンチャーに「知的財産部がなくても我々でこういうことができますよ」と発信した方がいいのではないかと。
弊所は特に初期の頃はベンチャーのクライアント様を中心にしていたことで発明創造の段階から取り組んできたという自負があり、また設立から約3年ほど経験と実績を積み重ねて自信がついたということで4期目の頃から「発明創造」を強みの一つに掲げ始めました。発明抽出の具体的な業務については、ブレインストーミングやヒアリングを中心に進めていくのですが、経験を積むにつれて、例えば「どこを押さえておくと他社参入防止に有益だ」といったことなどノウハウが見えてきます。
ベンチャー支援を強みとしてスタートしたのは、正直なところ、大企業を取るほどにはあまりにも若く人脈もなかったからと言えます。独立直前に、ある事務所経営の弁理士先生と飲みに行ったのですが、お前ら独立するのが早すぎる!と反対されたのが記憶に新しいです。大企業は原則お抱え事務所がありますし、仮に新規事務所開拓をしようとしている企業があったとしても、知財部長さんとの人脈が必要不可欠だと思います。独立当時は私も押谷も30代前半でしたし、年齢や経験面のハンデは確かにあったかと思います。一方で、我々の世代だからこそ刺さるレイヤーもあるだろうと考え抜いた結果が、当時特許庁が啓発に力を入れていたベンチャー企業でした。
私は、今でこそIPXの創業者の片割れとして、ベンチャー支援を強みとしていますが、独立前は、知財部有りきのクライアント対応を手がけてきました。そんな中でベンチャー支援します!と打って出たのは、今思うとそれなりには賭けだったと思います。とはいえ、相方押谷には当初から自信があったようです。押谷は企業知財部に在籍していたため発明抽出の経験があり、その経験とベンチャーへの情報収集(わかりやすくいうと、押谷はベンチャーマニアです!)を掛け合わせて、ベンチャー支援を強みとして打ち出すことになったのです。一方で私は情報処理系の研究者をしていたために、技術内容としては知見があったのですが、立ち上げ当時は発明抽出は経験がなかったといえます。独立当初、ベンチャーのことはほとんど相方に教えてもらったようなものです。
そして、弊所での経験と実績を積み重ねるうちに、現在では、「IPXは押谷も奥村も所属弁理士も皆ベンチャー支援に強い」とご好評いただけるまでになりました。
「質速両立Ⓡ」
「質速両立Ⓡ」のベースとなっているのは、創業当初から押谷がよく使っていた「爆速」という表現です。押谷は尖ったセンスを持っており、「爆速」という、知財業界ではまず使われないような、キャッチ―で砕けた表現を打ち出していたのですね。しかし弁理士業務というのはメンバーの時間を切り売りする労働主役型ビジネスですので、スピードアップにも限界はあります。
しかし押谷は普通ではない発想をします。
”ではどうしたらスピードアップできるのか?”
「ITを駆使すればいいじゃないか」と考えたのですね。
ただ彼自身はソフトウェアを開発することはできないので、「じゃあ後はよろしく」と(笑)
そういった経緯で実務支援機能を持つソフトウェアを内製化していく中で、あるとき「自分達で作っている機能も特許出願してみてはどうか」という声が上がりました。
普通の特許事務所は、自社開発したものを自分たちで特許出願するということはしていないので、一つの面白い取り組みですね。
弊所はこれまでに多数の知財出願をしていますが、その中でも弊社として2件目に出願した以下の特許が、とりわけ重要です。
▼「情報処理装置、情報処理方法、プログラム及び書類」
この技術は「カラフル明細書Ⓡ」という弊所サービスにおいて実施しており、弊所の強みの一つになっています。
「カラフル明細書Ⓡ」:https://ipx.tokyo/highquality/
通常は特許の書類は白黒なので、特許庁への出願時には無機質な白黒の明細書になってしまうのですが、ドラフト段階では色付き明細書を提供しており、クレームの記載が明細書のどこにサポートされているかが一目で分かる仕様になっています。お客様からも「こんなの見たことない」「わかりやすい」というお声をいただいています。
「超緊急!即日出願!」プラン
弊所のサービスの一つで、最低限の記載の明細書を作成し、即日の出願も可能にするプランです。
「超緊急!即日出願!」:https://ipx.tokyo/urgent/
例えば「あさって発表を控えているので、急いで明日 出願したいです」といったお急ぎのご相談や、特許事務所にとって繁忙期である3月に「10日以内でなんとかなりませんか」とご要望いただくことなどもあります。
繁忙期は特に納期10日で通常の出願は難しいので、いったん即日の内容で出して、余裕があるタイミングで追加しましょうというご提案をすることはありますね。
自社出願のメリット
自社発明を出願することには広告宣伝的な効果ももちろんありますが、実験的な出願を試すことができるというメリットが大きいと思っています。
日々新しい判例が出されたり、新しい実務が登場することで、従来のやり方を見直す必要も生じます。しかし新しいやり方をお客様の特許出願で試すのは難しいところ、自分たちの出願であれば臆せずチャレンジしやすいですよね。
最近試しているのが、「明細書の最低限の記載はどのくらいか」のラインを探るために、あえて実験的に内容を削って出願することです。
先述の「即日出願」サービスでは、もちろん後から国内優先権で追加するのは前提です(※1年以内であれば一度出願した内容に追記することができるという国内優先権の制度を使います)。
とはいっても、実は追加前でも最低限このままでもいけるよという出願書類を出したい、実施可能要件の記載を最低限充たすものを納品したいという考えがあるのですよ。
また、即日出願に関して、完全な自動化も実現したいと思っています。請求項を作成して、ボタンをポチっと押すと明細書が出てくる状態です。そのために幅広い案件に適用できる最低限かつ最小公倍数の記載を把握したいので、さまざまな実験を試みているところです。
ソフトウェア特許のポイント
ソフトウェア特許の分野では、大きく分けて2つのポイントがあると思っています。
これは、知財部の方々でも初心者の方でも、あらゆる方にとって意識しておくべきポイントです。
1.顕現性
一つ目は顕現性のある請求項を記載すること。すなわち外部から視えるか否かですね。
ソフトウェアの技術内容は「内部処理」なので、その内部処理のアルゴリズムを仮に他社が実施していたとしても、外から見ても見えないために、その立証するのは非常に難しいですよね。
アウトプットをみると自社のアルゴリズムと類似している。しかし「他社からうちの特許を侵害されている可能性がある」と感じても、証拠が出せない。
そのため顕現性があることは「侵害立証性がある」と表現されることもありますね。
少なくとも請求項1は、顕現性(=侵害立証性)が担保されていること。ソフトウェア特許の基本形は、「入力」と「出力」で記載されることが多いです。基本的な情報処理は、極めてシンプルにいうと、コンピューターに何らかの情報が入力され、内部処理を通って、最終的に出力されます。そのプロセスの中で、「入力」と「出力」の部分の記載に力を入れます。「こういう情報が入力されて」、「その結果こういう情報が出力されます」という部分でうまく特徴づける記載をするのです。
逆に、「入力」と「出力」の中間部分にかかる内部処理がいくら高度な技術内容だったとしても、その部分の記載に力を入れることはあまりありません。出力結果から見てあきらかに行われるであろうとわかるような最低限の記載にとどめます。それ以上に詳細に書いても、顕現性という観点においてはメリットが少ないためです。
もちろんまっとうな人間であれば記載してある部分を実施するのは避けようとするでしょうし、内部処理の部分を記載することで、侵害立証は難しいにしても、心理的な抑止力というメリットが完全にないとはいえません。しかし一方で「この部分はどうせバレないよね。実施してしまおう。」と考える者がいるリスクもあるので、あまり詳細に書かないようにするケースが多いです。
2.主体
二つ目のポイントは、「主体」です。
よくある情報処理系のサービスは、まずネットワークがあり、サーバーがあり、ネットワーク上でサービスを提供して、ユーザーはスマホ等のクライアント端末でアクセスし情報を得ているわけですね。ざっくりいうとこのような仕組みが一般的かと思います。ITベンダーが権利化するには、自らの技術が使用されている部分だけを請求項の範囲として権利取得することが大切です。
そうではない部分、例えばクライアント端末などを権利範囲に含めてしまうと、相手方からは「請求項ではクライアントが権利範囲に含まれていますが、うちはクライアントの部分は実施していないですよ」と逃げられてしまうのですね。
侵害者による行為の態様が権利範囲のすべての構成要素を充たすとはいえなくなり、直接侵害を主張できなくなるおそれがあるのです(※直接侵害に該当しない場合も間接侵害を議論する余地があるケースもあります。しかしこれに該当するケースは実際には少なく、原則的には特許侵害は直接侵害が認定されるか否かが問われるケースが多いです。)
今回はサーバーとクライアント端末だけで説明しましたが、もっと複雑になると例えばカメラやセンサーなどさまざまな装置が増えていきます。ソフトウェア特許では、それぞれの部分の主体に着目し、システム上の各部分で、どの登場人物が、どの処理をしているかをよく見ることがポイントです。その上で、権利者が技術を実施している部分だけを権利範囲にすることが必要ですね。主体の記載が正確にできていない出願は、世の中に驚くほど数多くあります。現在、法的紛争に至っているケースを見てみると、顕現性や主体を実態に沿って正しく記載していれば、そもそも疑義が生じず、争いに至らなかったのではないかと見受けられるケースもありますね。この2点を意識して特許取得すれば、法的紛争が起きにくい堅実な権利を取得できるわけです。
企業知財部の方々が特許事務所からの納品書類を確認する際は、顕現性と主体について正確に記載されているかに着目していただくといいかと思います。
韓国知財について
韓国の知的財産法は、日本の知財法を参考にしながら制定された経緯もあり、日本法と似ている部分も多くあります。
ソフトウェア特許は、国ごとに特許性の認められやすさに大きく差がありますが、日本と韓国は、この特許性の認められやすさや判断基準が似ています。つまり日本で認められた特許は、韓国でも認められやすい傾向にあるということ。外国出願は費用もかかりますから、なるべくコスパ良くということで、認められやすい韓国への出願は、おすすめしやすいかもしれませんね。韓国は海外進出に積極的な企業が多く、進出先としてはアメリカのほか、隣の国ということで日本も進出しやすいと考える韓国スタートアップも多いです。そこで韓国企業が興味を持ちそうな特許を仕込んでおくことによって、アライアンス交渉にスムーズに入りやすくなる可能性も。
以上を踏まえ、海外出願の選択肢の1つとして韓国をおすすめするときもありますね。
奥村弁理士の韓国対応
日本語が堪能な韓国代理人も多く、また日本語対応スタッフをおいている韓国や中国の特許事務所もありますが、一方で日本語対応スタッフがおらず日本出願対応をしていない韓国事務所もあります。しかしそういった事務所でもクライアントが日本出願を要望するときもあるのですね。
そのような場合に私のような日本弁理士が、「韓国語対応できますよ、韓国語のままでドキュメントを送ってもらって大丈夫ですよ」、という風にお伝えすると喜ばれ、我々としても数多くの案件を受注し、ビジネスにつながっていますね。
特許事務所の所内教育を改革したい!
従来の特許事務所でよくみられる教育を、業界全体の課題として改革していってほしいという想いを込め、弁理士法人IPXでは所内教育に力を入れています。
こちらでも詳しく話していますので、ご興味がおありの方はぜひご覧ください。
「知財実務オンライン」: (第153回)知財実務オンライン:「特許事務所の実務指導を改革したい!~中小事務所の所長さんや指導担当者に伝えたい~」(ゲスト:弁理士法人IPX 代表弁理士COO/CTO 奥村 光平)
従来、特許事務所業界では、根性論のようにとりあえずOJTで「師匠の真似をしながら覚えてください」といった文化が多く、言語化やプロセス化ができている事務所は非常に少ないですね。しかしそういったことを行っていかないと若手に伝わっていかない部分もあるのではと思っています。
私はマニュアル化や言語化、ひいては経験知を若手に伝えていくということが好きなので、発明抽出・発明創造についても含め、事務所設立してから6年ほど培った事柄を、所内教育にて伝えています。またソフトウェア特許を中心に「こういう風にすると特許を取りやすい」といった経験知であるとか、ビジネスモデル特許に当て込むノウハウなどを、すべてマニュアル化を進め所内で共有しています。従来の特許事務所業界では、一人である程度 仕事を回せる人が歓迎され、新人は最初はなかなか明細書を書けないために嫌煙される場合が多いです。しかし弊所では、未経験者も含めて多くの若手に入所してもらっています。
弊所のお客様に多いITベンチャーは若い経営者や社員の方々が多いので、弊所のように若手が多いと親近感が湧きやすいというメリットもあるかもしれませんね。良い明細書を書く人が良い指導者になるとは限りません。従来の教育のもとで淘汰されてしまった方々も残念ながらいるのではないかと思います。しかしこの業界において、特にボリュームゾーンが良い新人教育をするようになれば知財業界はもっともっとよくなります。
現在、特許業界で活躍されている方は、従来の弱肉強食の中を勝ち抜いた方々なので、「自分はできたのに、なんでこの人はできないんだ」と思ってしまうかもしれませんが、今の新人が自分と同じとは限らないのです。「自分がこのように習ってきたからそれでいいんだ」という風には考えないでほしいのですね。特許業界の教育は改革していける。もっと良いものに変えていけるのです。
弁理士法人IPXはこれからも、業界全体が抱えた課題を解決していくことへの願いを込めて、所内教育の充実に自信をもって取り組んでいきます。それがひいては、より高い顧客満足度にもつながっていくと考えています。
弁理士法人IPX:https://ipx.tokyo/
代表弁理士 COO / CTO 奥村光平氏:https://ipx.tokyo/member/kohei_okumura/
「知財実務オンライン」: (第153回)知財実務オンライン:「特許事務所の実務指導を改革したい!~中小事務所の所長さんや指導担当者に伝えたい~」(ゲスト:弁理士法人IPX 代表弁理士COO/CTO 奥村 光平)