いったん登録されたのに無効となった商標
先日『謎多き画家バンクシーが「正体不明であるために」自らの絵についての商標が無効になった』というニュースが世界に衝撃を与えました。バンクシーの商標権はヨーロッパでの話ですが、日本もヨーロッパと同様に商標権に無効事由が定められています。そもそも無効とはどういう状態をいうものなのでしょうか、またどのような理由で一度認められた商標が無効となるのでしょうか。
※なお、EUIPO(欧州連合知的財産庁)は、商標権者バンクシーが「正体不明」であることではなく、商標を商業的に利用する意図がないにもかかわらず商標を出願しているとする理由に基づき商標を無効としています。
「商標の無効」とは何か
権利が「無効になる」という状態は法律上、もともと存在しないはずの権利が何らかの理由で存在してしまっている場合に、存在していない状態であることを確認することをいいます。商標権も基本的にはこれと同様で、本来は登録できないのに何らかの理由で登録されてしまっている権利や、何らかの事情で商標として維持できない状態となってしまっている権利を無効事由の発生時から存在していなかったと確定することを「商標権を無効にする」といいます。
商標の無効事由
商標が無効となる事由は商標法46条1項に明記されています。非常に大まかに分類すると
- 商標登録時に商標法6条を除く商標拒絶理由やいわゆる「冒認登録(本来の権利者でない者が出願した商標が登録されること)」など商標を登録すべきでない理由があったにもかかわらず看過されて(あるいは確認が不可能であるために)商標が登録されたことを理由とするもの
- 商標登録後に事情が変わって商標登録の要件を満たさなくなってしまったことを理由とするもの
があります。詳細が不明ですが、バンクシーの商標権についてEUIPOの理由付けを前提とするならば、商標登録後に、商標を利用する意図がないにもかかわらず権利を防衛するためだけにオンラインストアを設立したなどの行為が、日本の商標法に言う「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする(商標法3条1項柱書)」とは言えない、と判断したと考えられます。
他人の商標が無効だと思ったときにとれる手段は?
では、もしあなたが他人の商標を無効だといいたい場合、どのような手段がとれるでしょうか。商標法46条1項柱書は「商標登録を無効にすることについての審判」を請求することができると定めています。この時の請求の相手は「審判」を行う特許庁、審判に際して相手とするのは無効としたい商標の商標権者です。
ただし、この請求はすべての人ができるわけではありません。無関係な人が不当に請求を行うことを防ぐため、無効審判は商標権を無効とすることについての「利害関係人に限り請求することができる」と46条2項で定められています。
もし他人から商標が無効といわれたら?
もし、自己の保有する商標を無効とするための審判が開始されてしまった場合、商標権者はこれらに対応する必要があります。この場合、専門家に素早く相談して適切な方策をとることが重要です(事件の個別の事情によって何が適切かは異なるので注意が必要です)。
また、仮にこれらの請求が棄却され自らの商標権が維持できるならば一安心ですが、これらの請求が認容されてしまい、その後も何の対応も取らない場合は商標権が消滅してしまいます。これを防ぐために、無効請求が認容された場合は知財高等裁判所に「審決取消訴訟」を提起し争うことになります。
なお、この訴訟は無効請求の当事者ならば請求した側でも請求された側でも起こすことができます。この場合には、弁理士・弁護士などの専門家らとともに訴訟を進行することになります。
まとめ
ブランドイメージを蓄積していく商標が無効となることは、ビジネス上も影響が大きく避けたい事態です。無効請求がされてからの対応ももちろん大事ですが、あらかじめ無効事由を知ったうえでそれを避けるように商標を取得することも必要になってくるでしょう。
このように無効事由は、今無効請求を受けている人だけの問題ではないのです。今商標のトラブルを抱えていないあなたも、「商標無効事由」の存在をぜひ知財戦略に活かしてください。