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知財部インタビュー Global Mobility Service株式会社

企業で自社技術の権利化・知財活用に取り組む知的財産部の方々へ、普段の業務や企業全体の知財戦略についてお話を伺う「知的財産部インタビュー」の企画。今回は、Global Mobility Service株式会社 執行役員 コミュニケーション本部長 大久保祐介氏とコミュニケーション本部知財グループ課長 髙橋匡氏にお話を伺いました。(以下、敬称略)


大久保祐介氏 プロフィール
役職:執行役員 コミュニケーション本部長
経歴: 大学卒業後、株式会社電通へ入社。外資系世界最大手の食品会社を担当。マーケティング戦略立案、ブランド開発、各種クリエイティブ制作、イベント企画・運営など企画〜実施までマーケティング 領域を幅広く担当。その他、スタートアップ専門対応組織「電通グロースデザインユニット」立ち上げ等を経て、同社を退職。
現在は、金融包摂型FinTechサービスを展開するGlobal Mobility Service株式会社にて、執行役員として広報・マーケティング・人事・総務・知的財産など幅広く管掌。社外に向けたマーケティングや広報だけに留まらず、社内のコミュニケーションを活性化させ社員の価値発揮を最大化させるインターナルブランディングにも先進的に取り組む。2019年グッドデザイン金 賞、第2回オープンイノベーション大賞経済産業大臣賞など受賞実績多数。
その傍ら、知的障がい者の自立支援施設を運営するNPO法人ダックスにも参画。
髙橋匡氏 プロフィール
役職:コミュニケーション本部知財グループ課長
AIPE認定 知的財産アナリスト(特許)
経歴: 加工食品メーカー、刃物総合メーカーにて少数知財部門立上げを経験後、2021年より現職。顧客視点での提案を強みとし、社内外におけるコミュニケーションを重視した知財活動に従事。

主な活動(動画は下記リンクからご覧いただけます)
第57回知財実務オンライン「コミュニケーションを重視した知財活動」動画
『一橋大学 吉岡(小林)徹 × GMS高橋匡 | スタートアップにおける知財』動画
2021年に知財ガバナンス研究会にメンバーとして参加し、知財情報を活用した社内外とのコミュニケーションの活性化検討する会(知財情報活用分科会)の発起人として副代表を務める。


知的財産との出会いと業務、そしてターニングポイント

大久保:私はGMSに入社した当初は主に広報を担当しておりました。大学時代には知的財産のゼミに入っており知財の勉強もしましたが、大学卒業後は広告代理店でマーケティングに携わっており、知財を扱うことはありませんでした。知財は一般に技術や事業に寄与するだけでなく、もっと企業価値を高める部分で寄与できる、という思いはずっとありました。

その後GMSに移り、現在はコミュニケーション本部長を務めています。GMSはコミュニケーション本部の中に広報グループや人事グループ、知的財産グループがあるので、知財と広報を組み合わせていかに企業価値を高めていくかという点も考慮して仕事に取り組んでいます。

髙橋:大学で生命工学を学んだのち、食品メーカーで研究開発に携わりました。その後、配置転換により知財リエゾンを担当し、最初は包袋の管理業務など、親会社の知的財産部の業務サポートから私の知財キャリアはスタートしました。

しかし、これでは「知財部のお手伝いさん」になってしまい、自分のバリューを発揮できる領域について模索していたところ、ターニングポイントが訪れたのです。

それは、上長が担当役員へ特許権の維持・放棄の判断を仰ぐための説明資料を作成する機会を得たこと。上長が担当役員に特許の説明をする際に、私が作成した資料が役に立ち、円滑なコミュニケーションをとることができたと感謝されたことが、コミュニケーションを重視する知財活動の原点だったと思います。

知財は一見小難しくてよく分からないと思われがちですが、それを「翻訳」して対話相手に分かりやすく伝えることでコミュニケーションが活性化されるという重要な気付きが得られましたね。その後、ASEAN知財の活動で現地知財局の審査官を対象とした技術説明会の開催等を経験したこともあり、ASEAN知財の知見を活かして働きたい想いがありました。現在はASEANを中心に事業展開しているGMSに移り、社内環境に合わせた知財活動のあり方を日々トライアル&エラーで実践している最中です。

GMSのビジネスモデルと知財戦略  ‐車を持つ人の生活を向上させる‐

髙橋:GMSのビジネスモデルは以下の3つのポイントからなっています

車に取り付けるデバイスにより駐車場などで安全に車両を制御する技術

金融機関への支払い状況と連動して自動車を管理する技術

これらの技術を現地のニーズに合わせてローカライズするオペレーションノウハウ

GMSがこれらを通して実現したいのは「車を止める」ことではなく「車を持つ人の生活を向上させる」ということです。GMSではIoTを活用したFinTechサービスにより、自動車を遠隔起動制御・再起動することを通じて支払いを促すというところが今までにない観点だと考えています。

大久保:ビジネスモデルの構築にあたっては「参入障壁」をいかに作るか、というのは非常に重要です。多くの法律上の権利とは異なり、知財は排他的または独占的な権利利用が権利者に認められる場合があります。つまり、特許によって参入障壁を築くことは、近視眼的な利益の取り方をせず長く社会に貢献するためのビジネスモデルを組みやすくしてくれますよね。GMSは経営理念を大切にした経営をしていますので、これらの参入障壁がビジネス上特に重要になってきます。

そういう面で、知財を保有していること、それを企業のコミュニケーションとして活用していくということはGMSのように社会貢献性の高いビジネスを行うにあたって非常に重要なのではないかなと考えています。

大久保:GMSは、ASEANをはじめとするグローバルとしてはワンテクノロジーでサービスをそれぞれローカライズさせて各国に展開しているというビジネスモデルです。

髙橋:ですので、製造拠点やサービスを実施する国でそれぞれ特許の権利を取得することが大事と考えています。特にASEANでは早期の権利取得や知財の活用面で課題が大きいため、ASEAN知財の実務を経験してきた自分の知見が活きやすいと、考えています。

髙橋:組織体制の面では、大久保と私が所属しているコミュニケーション本部は、人事・総務・広報・IR・知財を設置した体制になっています。スタッフ部門が集結しているため、各部門と連携することで、経営と一気通貫した知財戦略を行いやすい環境と感じています。知財ガバナンス研究会に参加して各社と意見交換させていただておりますが、特に広報・IR部門と連携しやすいメリットは大きいと実感しています。今後このような組織体制は知財部門の配置として新しいトレンドとなっていくかもしれませんね。

大久保:知財という観点からいえば、私の役割は企業価値を高めるために知財の重要性を社内に周知することです。たとえば、特許一つとっても国際出願などもからめると費用はなかなか馬鹿にならないですよね。これをきちんと予算として会社が認めることができるかどうかなど、会社としても知財を重要視する機運を高めることに注力しています。

最近だとスタートアップ企業による資金調達が活性化してきていますが、従業員全員が資金調達のノウハウや手続に詳しいわけではありません。それでもその重要性を分かって「資金調達は大事だから協力しよう」と全社的に取り組む感覚ができている。

知財もそれと同じで、社内全員が詳細に知財を知っている必要はないと考えています。「知財って大事だよね」と社内のみんなが思う雰囲気づくりこそが企業の知財活動を進めていくにあたって大事だと思い社内広報活動を行っています。

他にもGMSが持っている知財を企業価値につなげていくために、社外向けの広報活動を行っています。

髙橋:私たちはコミュニケーションを重視した知財活動を行っており、大きく3つの取組みがあります。

・経営層とのコミュニケーション

髙橋:毎月行われている経営会議の場に大久保と私も参加しています。知財活動の進捗を説明したり、経営課題に対して知財観点でのソリューションを提案できるよう経営層とディスカッションしています。

・グローバルの支部間でのコミュニケーション

髙橋:週3回、グローバル拠点とつないだ全体朝礼を行っており、GMSの企業活動を共有できる場となっています。その中で知財についても説明する機会があります。他には海外現地法人とのオンライン会議で発明発掘も行っています。

・社内間のコミュニケーション

髙橋:「知財フリートーク」という知財のニュースやブログをネタに社内で雑談する会を毎週金曜日におこなっています。

参加自由、中入り中抜けも自由の緩い雰囲気で、時には社外のゲストをお招きするなど色々な知財をテーマに雑談しています。

参加するメンバーは、発明者として特許出願を経験した社員や、ブランディングの面から知財にかかわる社員など様々な層がいます。

大久保:フリートークには知人の弁護士を呼んだこともありましたね。社内の人が普段接しない人と接するのは視野が広まるかなと思いますし、社員の見聞が広まればいいな、と思っています。

髙橋:他にスタートアップ、グローバルベンチャーならではの取り組みと思うのが商標使用証拠の調査注1です。海外で実際に商標を使用していた証拠を調べることは結構難しいので、現地拠点に呼びかけて、現地メンバーも巻き込んだ形で証拠収集を行うスキームを構築しました。大手企業では現地駐在員に知財担当社が出向しているケースも多いと聞きますが、GMSでは人的リソースの面からこのような対応を取りました。結果として2か月程度で商標使用証拠を素早く収集する仕組み作りが完了しました。グローバルに拠点を置くベンチャーも同じような施策が実践できるのではないかと思います。

また、TMマークと(R)マークの表示ルールなどを含めたロゴマニュアルを作成し、現地法人に周知しました。

髙橋:加えて知財にかかわる取り組みで重要だと考えているのはWIPO GREEN注2)です。

GMSが行っている取り組みは貧困だけでなく環境の課題解決にも関わっているためこちらに登録しています。

具体的な取り組みとしては、自動車ローンの際にクリーンアクト(注3)に適合する車を積極的に選定することで、値段が高く普及しづらかった環境負荷が低い新車の普及を図っています。

GMSは事業そのものがSDGsという建付のため、オープンイノベーションを活性化させるためにもWIPO GREENの活用が有効と捉えています。また、日本での活用をもっと加速するようにパートナー企業の一員としてWIPO  GREENの活動を支援したいですね。

特許で資金調達 ‐ニーズを捉える「GMSの強さ」‐

髙橋:GMSの特許のマネタイズの事例としては、デンソー社から特許技術を評価していただいて資金調達を行ったことがあげられます。

大久保:特許について評価してもらえたのは自信になりますよね。普段から知財部を持っている大企業の方だからこそGMSの特許を評価していただけたのかもしれません。

髙橋:スタートアップは、大企業が着目していないユニークな領域を事業とするケースが多いと思います。これは推測ですが、そのユニークな事業の領域に合致するように特許を出願・権利取得しているが評価されたのだと思います。逆に権利を持っていないと他社が模倣しやすい状況になるので、参入障壁が構築されていない点で評価は低くなる可能性が高いと思います。

大久保:特許が評価されたといっても、技術シーズにばかり着目しているわけではありません。GMSの技術は実在する社会課題をどのように解決するかというニーズ起点で開発されているので、あくまでニーズに応える技術が特許化できるのか、という観点から考えられています。こうしてニーズを元にして取れた特許は、自然と事業的な価値が生じる、という形にはなりますね。

シーズ発想もニーズ発想も大事だと思いますが、経営資源が限られているスタートアップが急成長するためには世間のニーズをとらえる必要がありますから。

「経営の意思」と「組織の意思」を合わせるには

髙橋:企業が知財を活用するための意識付けに大事なことは、一つは知財を身近に感じることですね。知財は他部門の方に「自分には関係ない」と思われがちという課題がどこの企業にもあると思います。だからこそ、知財を身近に感じてもらえるよう地道な意識付けを繰り返し行うことで、社内コミュニケーションが活性化するのではないかと思います。

そのためには「各業務に潜んでいる知財って何だろう」と、知財への興味・関心が喚起されるような社内風土の醸成が肝要と思っていて、その結果として知財観点でのリスク最少化と機会最大化につなげていきたいと思っています。

これは現場の意識だけでなく経営層にも同じことがいえます。だからこそ経営層とも地道な対話を繰り返していくことは、現場への草の根活動と同じくらい大事ですね。

大久保:経営会議への知財部門の参加にあたっては、「経営の意思」として知財戦略をしっかりと進めていくという考えが大事だと思います。弊社の場合は代表の中島が知財を大事にするということを実践してきたので、創立時点から「経営の意思」はありましたね。

一方、知財フリートークは髙橋をはじめとする社員からの働きかけがきっかけで始まりました。知財戦略は「経営の意思」だけでなく社員側の理解、つまり「組織の意思」も必要です。GMSでは「経営の意思」はもともとあったのでそれをより強固にすることを目指し、髙橋が経営会議に参加して、知財的な切り口から情報共有するということも行っています。

月に一回の経営会議の他に、隔週ぐらいのペースで知財と事業と技術の知財BizTech会議をやっており、その都度情報共有を行っています。知財って分からなくなると途端に離れていってしまうので、丁寧なコミュニケーションが必要かなとは思います。

髙橋:知財BizTech会議にあたっては事前にアジェンダを作って、分かりやすく地に足の着いたディスカッションをするようにしています。発信・提案を継続することで、次第に経営層にリーチできるようになるのではないでしょうか。先ずは対話の場に参加できるよう手を挙げることが重要だと思います。

FinTechの未来 -「ありたき社会」と「知財」-

大久保:FinTechは今まで、「金融にアクセスできる人」の利便性を高めるサービスが非常に多かったですよね。我々が今取り組んでいるのは「金融にアクセスできない人」がアクセスできるようにするというサービスです。

世界にはこの技術を待っている人たちがたくさんいる。我々が成長することも含めてこういう視点でのFinTechが増えていくといいなと思っています。

また、一連の取組みを通じて様々なデータが生成されるわけですが、データを活用するにあたって、データを作り出した人のメリットとなるデータの活用を実現したいと思っています。これはGMSのビジョンである「『真面目に働く人が正しく評価される仕組み』を創造する」ということにつながっていきます。

例えば業務のデータや金融のデータを企業のマーケティングに使うだけでなく、データを生み出した「元」の人の信用の向上につながるといったFinTechの形を追求したいなと思っています。このビジネスモデルを知財がバックアップする、という体制が整っていると会社としては健全な経営ができるのではないのかなと思いますね。

GMSは社会貢献性と経済合理性を両立させている珍しいビジネスモデルだと思うんですが、このように「ありたき社会の姿」を長期的に描くためには知財が重要だと思います。

髙橋:現状の事業に加えて、将来の事業も考えた知財のポートフォリオを組むことで他社が真似したくても真似できない事業を創ることも重要ですし、権利行使等の権利活用をできる体制を作ることも重要だと思います。将来を見据えて権利を獲得し、その活用を考えるという知財活動において「当たり前」のことを丁寧に対応する、ということが重要だと思います

知財業界を志す方へ

髙橋:多くの方に「知財は自分には関係ない」と思われている分、知財って伸びしろ大きいと思うんです。身近な日常の中に大小濃淡あれど知財って潜んでいると思っていて、知財を身近に感じてもらえるような組織環境を創ったり、改善していくことで、知財部門への相談が増えていくのではないでしょうか。さらには、社外の知財専門家と連携する機会も増えることが期待されます。理想的には、すべてのステークホルダーと知財をネタに雑談できるようなコミュニケーションができると企業における知財の活用の多様性が広がるように思います。

大久保:私は知財の専門家ではないですが、知財は可能性にあふれてると思います。「知財立国」と言われてかなり時間が経ちましたが、なかなか理解が追い付いていないように感じます。一方で、世界的には知財の重要性をしっかりと捉えて企業が成長しており、知財にはまだまだチャンスが広がっているように思います。


注1:米国・フィリピンなど特定の国で商標の登録時または、更新時に必要となる手続。特定の期間内で実際に商標を使用していたことを示す資料を各国の知的財産局に提出する

注2:WIPOが行っている環境技術をグローバルに普及させるための施策

注3:フィリピンなどで施行されている、環境負荷の低い車の利用を推奨する法律