ニュースの概要
平山郁夫(1930~2009)ら有名画家の作品をもとに作られた偽の版画が大量に市場に流通していた問題で、警視庁は、警視庁は大阪市で画廊を経営していた元画商の男性と、奈良県で工房を営む版画作家の男性を著作権法違反の疑いで逮捕する方針を固めました。
問題となっている点
遺族らの許可なく、版画の原版を複製したため、複製権侵害の成否が問題となります。
2人は共謀し、遺族らの許可を得ずに有名画家の版画の偽の原版を作製しました。また、刷った版画に偽のサインを入れて売るなどしていた疑いがあります。
画家本人や依頼を受けた版画作家が石や銅などで原版を作り、刷った紙に真作の証しとして画家のサインや印を入れるのが一般的です。
複製権侵害の要件
複製権=著作物を印刷、写真、複写、録音、録画などの方法によって有形的に再製する権利
[要件]
- 依拠性
- 同一性・類似性
- 依拠性とは、既存の他人の著作物(原作品)を「利用して作品を作出」したことに該当するか、ということです。
本件において、版画の原画と“偶然”一致している場合は依拠性がないので、複製権侵害は認められません。
- 同一性・類似性とは、多少の修正・増減があり、相違点があったとしても、既存の著作物のその内容及び形式を覚知させるに足りるもの、すなわち、これと表現形式上同一性を有するものであれば「複製」となります。
本件でいうと、版画の原画と表現形式上同一性を有しなければ、同一性・類似性がないと評価され、「複製」にはあたりません。
これらの該当性は今後の捜査によって明らかとなると考えられます。
そもそも作者が死去した作品の複製は、著作権侵害にならないのでは?
たしかに、著作者人格権は一身専属権なので、原則として人格権は生存している人間にのみ認められます。死者には認められないと考えられているため、著作者人格権は著作者の死によって消滅するとされています。
しかし、著作者の死後一切保護しないのは、あまりにも著作権の保護が足りません。そこで著作権法60条※は、行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他によりその行為が当該著作者の意を害しないと認められる場合において、著作者が死去後も、著作者が生きていた場合に著作者人格権の侵害となるような行為をしてはならないとしています。
人格的利益が害された場合の具体的な救済措置については、著作権法116条で規定され、著作者の遺族が差止請求(著作権法第112条)、損害賠償請求(民法709条)、名誉回復等の措置請求(著作権法第115条)ができることになっています。
「著作物を公衆に提供し、又は提示する者は、その著作物の著作者が存しなくなった後においても、著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならない。ただし、その行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他によりその行為が当該著作者の意を害しないと認められる場合は、この限りでない。」
配信元:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210927/k10013278101000.html