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ユニクロとGUがセルフレジで特許侵害 スマート化のカギ「RFIDセルフレジ」特許で大手企業と下請メーカーが争う

2019年9月24日IT関連企業の(株)アスタリスクが、(株)ファーストリテイリングの子会社である(株)ユニクロと(株)ジーユー(GU)を相手取り、「RFIDセルフレジ」に関する特許権侵害行為差止の仮処分命令の申立てを行いました。

この話は、2017年4月18日に経済産業省と大手コンビニエンスストア5社が行った共同宣言に遡ります。

コンビニ電子タグ1000億枚宣言
“2025年までに、セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソン、ミニストップニューデイズは、全ての取扱商品( 推計1000億個/年 )にICタグを貼付け 商品の個品管理を実現する。”

経済産業省はこの共同宣言の翌年にも、日本チェーンドラッグストア協会と共同で「ドラッグストアスマート化宣言」を行い、2025年までに取扱商品に電子タグを実装し、商品の個品管理の実現を目指すとしています。

この背景には、小売業の人手不足や労務コストの上昇問題、食品ロスや返品問題などへ対応するために、デジタル化が遅れている店舗にRFID(次項で解説)を導入しスマート化しようとするものです。

商品にICタグを貼付けると非接触で商品情報を読み取ることができ、生産者⇨物流⇨小売店⇨お客様と一貫して商品のデジタル管理が可能となります。

1台100〜200万円とも言われるICタグ読取可能なレジ「RFIDセルフレジ」を、全国のコンビニ約55,000店、スーパー約22,000店、ドラッグストアチェーン約20,000店に導入すると数千億円規模の巨大なビジネスが見えてきます。

また、販売店サイドでは、終わりが見えない新型コロナウィルスの感染症拡大への対応策の一つとしても「RFIDセルフレジ」への期待が高まっています。

RFIDセルフレジとは

RFID(Radio Frequency Identification)は、小さなICタグと無線通信で情報をやり取りするシステムのことで、Suica、PASMO、ETCカードなどにも利用されている技術です。
RFIDの主なメリットは次の3つです。

  1. 非接触でデータの読み書きができる
  2. タグが見えなくてもデータの読み書きができる
  3. 一度に大量のデータの読み書きができる

このRFIDを組み込んだのが「RFIDセルフレジ」で、人手不足の小売業において期待されている「店舗の無人化というイノベーション」に向けた様々なシステムの中で、最も注目されているのがRFIDセルフレジなのです。

何が特許権侵害に当たるのか

ユニクロとGUによるアスタリスクの特許権侵害を説明する前に、ファーストリテイリングと東芝テックが共同開発した「Close型」のRFIDセルフレジと、アスタリスクが開発した「Open型」のRFIDセルフレジの基本的な違いを説明します。

東芝テックの Close型RFIDセルフレジ

お客様は音声ガイドや画面表示に従い買物カゴに入った商品をセルフレジ下部のBOXに投入し扉を閉めます。バーコードを読み取る通常のセルフレジと異なり、投入された複数の商品上のICタグを一括読取機構により漏れなく瞬時に読取ることが可能です。

(出典:東芝テック株式会社 2017年4月20日プレスリリースより)

アスタリスクの Open型RFIDセルフレジ

RFIDセルフレジにはフタや扉つきのタイプが多くあります。これは、電波の強いRFIDでは10mくらい電波が飛ぶため、周辺にある商品情報まで読込んでしまう可能性があるのでフタや扉を閉めることによって電波を遮断しているのです。

しかし、商品をBOXに入れて扉を開閉するのでは手間がかかりすぎて普及の障害になると考え、開発されたのがアスタリスク社のOpen型PFIDセルフレジです。

お客様は、商品の入ったカゴをBOXの中に置くだけでデータの読取りができるので、扉の開閉は不要で、音声ガイドなどを聞かなくても簡単に利用できます。

特殊素材によりRFID電波をコントロールすることで、商品を密閉しなくてもカゴの中だけのICタグを読み取ることが可能になりました。

アスタリスク独自のこの仕組みにより、商品に添付されているICタグを、買い物カゴをポンと置くだけで一括読み取りができるようになります。

2つのRFIDセルフレジの違いは、RFIDの電波の遮断方法にあります。

東芝テック・・・・横向きに開口し、扉を閉じることで電波を遮断
アスタリスク・・・上向きに開口し、特殊素材によりRFIDの横方向の電波を遮断(扉・フタは不要)

身体をかがめてレジ下部のボックスに商品を入れ扉を閉め、データ読取り後に扉を開けて商品を取り出す東芝テックのレジに比べ、アスタリスクの開発したレジは商品の入ったカゴをBOXの中に置くだけですから使い易さの点で優れていると言えます。

2017年にGUが導入したのは横向き開口の「Cloes型」でしたが、2019年にユニクロが導入した新型レジはアスタリスクの製品と同じ上向き開口の「Open型」でした。

上向き開口の「Open型」を実現するには、RFIDの電波を遮断するシールドが必要ですが、この点でアスタリスクは自社の特許が侵害されていると判断したようです。

特許侵害に関する経緯

関係各社の特許に関する動きは、それぞれ呼応し合いながら進行しているので、全体を把握しやすいように時系列で整理しました。

A:アスタリスク  F:ファーストリテイリング  G:GU
T:東芝テック   U:ユニクロ     レジ:RFIDセルフレジ

2016年6月23日FT:Close型レジに関する特許4件を共同出願(未登録)
2017年4月20日T:Close型レジ900台をGUに納入すると発表。
5月9日A:Open型レジの基本特許を出願(特許6469758号)
5月10日A:ジャパンITウィークでOpen型レジを発表
2019年1月16日A:基本特許の分割出願(第1世代①)(特許6518848号)
2月以降U:各店舗にOpen型レジの導入開始
4月19日A:第1世代①の分割出願(第2世代①、②、③) (①特許6541143号、②特許6532075号、③は審査中)
5月22日F:特許庁に基本特許の無効審判を請求(その後4件を追加)
9月24日A:Uに対する特許権侵害行為差止仮処分命令の申立を行う
2020年5月G:各店舗にOpen型レジの導入開始
6月5日特許庁:基本特許の無効審判の「審決の予告」の中で、読取装置(上向きに開口した、電波を遮断する「シールド」)に関する権利は生き残ることが判明。
6月16日A:Gに対する特許権侵害行為差止仮処分命令の申立を行う

アスタリスクのOpen型RFIDセルフレジの特許を整理すると次のようになります。

今後の見通し

アスタリスクは、ユニクロ・GUの親会社であるファーストリテイリングとライセンス契約の交渉を行ったが、最終回答が「ゼロ円ライセンス」であったため仮処分申請に至ったとい言います。(2019.10.9ダイヤモンド・オンライン)

その間、ファーストリテイリングは、特許庁に基本特許に関する無効審判の請求を行うなど争う姿勢をとっています。

RFID関連ビジネスを中心に展開するアスタリスクにとって「Open型RFIDセルフレジ」は大きなビジネスチャンスですから引き下がることはできません。しかし、売上高が14億円弱(2018年8月期)の同社にとって年間3000万円とも言われる訴訟にかかる費用は決して軽いものではありません。

一方、大企業のファーストリテイリングにとっても「Open型RFIDセルフレジ」は店舗のスマート化に必要で導入は進めるが、ライセンス料の支払いは避けたいところでしょう。しかし、5件の特許及び特許出願の全てを無効にするのは容易なことでは無いと思われます。

このまま訴訟を続けるのか、どこかの時点で和解しライセンス契約を締結するのか、訴訟の成り行きから目が離せません。