M&Aの件数が右肩上がりで増加し続けている昨今、それに合わせて、企業価値の算定に欠かせない財務状況や権利状況などを洗い出す各部門の役割も急増しています。
今回は、M&Aにおいて知財部門が主役となる知財デューデリジェンスについてその目的や役割について解説していきます。
M&Aにおける知財デューデリジェンスとは?その目的は?
知財デューデリジェンスとは、買収対象となっている会社の企業価値算定のために知的財産を調査することをいいます。
企業が保有する特許や商標をはじめとする知的財産権には、値段が付いているわけではありません。
なので、権利の保有状況や、他社に対してライセンスをしているかといった形で、保有している知財の権利状況の確認、他社にライセンスをしている場合はそのライセンスに関する契約の内容はどのようになっているかといったことを調査します。
また、実際の特許の明細書などの書面を読んで、どのようなビジネス的な価値を持っている特許であるかといったことや、他社にどのくらい引用されているか(つまり、興味を持たれているか)といった情報を算定根拠とし、特許の価値を算定します。
知財デューデリジェンスは、特許や商標、ノウハウなどの知的財産に関する状況を調査し、買収を行った後で事業を継続するにあたりリスクとなりうる要因がないかということや、買収することで自社とどのようなシナジーが得られるのかといったことを分析し、買収のために資するレポートを作成することを目的としています。
M&Aにおける知財デューデリジェンスの役割と特徴
M&Aにおいて知財デューデリジェンスを行う場合の担当者は、最終的にその企業を買収することで自社のものとなる知的財産がどれだけ今後の事業活動にプラスの影響を与えるのかといった視点で知財の評価を行う必要があります。
たとえば、
ガソリン車の製造販売を主要事業として行っている自動車メーカーが電気自動車の製造を考えたときに、自社にはノウハウがないことから
電気自動車用の電池を研究開発しているスタートアップ企業Aを買収しようと考えたとします。
株式譲渡や吸収合併など、買収の方法はさまざまですが、どのようなスキームでM&Aを行うかが決まれば、買収対象企業についての具体的な精査を行います。
そこでは、
買収対象企業の事業内容についての調査(ビジネスデューデリジェンス)や、法的な観点からの調査(法務デューデリジェンス)、財務的観点からの調査(財務デューデリジェンス)を行うことが必要ですが、特に上記事例のように「自社に電気自動車用の電池の特許やノウハウがないから他社を買収したい」といった技術的な部分が大きくかかわる買収の場合は、買収対象企業が保有している知的財産についての調査も必要となります。
M&Aのデューデリジェンスを簡単かつ安全に行うための「リーガルテックVDR」とは?
この事例についてもう一歩踏み込んで検討をしてみると、上記事例にでてくる「スタートアップ企業A」の開発している電池が他社の特許を侵害している可能性もあります。知財デューデリジェンスを行わず買収をしてしまうと、こういったリスクを把握しないまま買収をしてしまい、買収後に、Aから権利を移転させた特許を使用して行っている事業に対して差し止めをされてしまったり、元の権利者に多額のライセンス料を支払う必要が出てきてしまったりする可能性があります。そうなると事業としては大打撃を受けることとなります。
知財デューデリジェンスを行うことでこういったリスクを低減できます。
知財デューデリジェンスでわかることはそれだけではありません。たとえば、スタートアップ企業Aが取得している特許の権利範囲が広く、さまざまな事業に転用できる汎用的な技術である場合には予定していた電気自動車の電池だけではなく、ドローン用電池として転用したりといった可能性があります。
買収段階の調査でその可能性を把握しておくことも機動的なビジネスを行う上では重要なポイントとなります。
知財=特許ではない
これまで特許を題材として説明をしてきましたが、もちろん特許以外の知財も重要です。知的財産の種類は以下のような内容になりますので、知財デューデリジェンスの担当になった方は以下の内容について検討を行う必要があることを頭にとどめておくようにしてください。
(引用:https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/seidogaiyo/chizai02.html )
実務の流れ
実際の知財デューデリジェンスでは、以下の流れに沿ってプロジェクトを進めていきます。
1.資料の開示請求
このフェーズでは、買収対象企業にどういった資料を出してもらうかを選定します。
保有している特許や商標のリスト、発明に関する技術者のリスト、具体的な社内資料などの知財デューデリジェンスに必要な資料をピックアップします。
2.内容の精査
提出された資料の中身を精査します。
3.マネジメントインタビュー
提出された資料を精査した際に、ヒアリングが必要と判断した事項について実際にヒアリングを行います。
4.現地調査
実際に会社を訪問し、提出された資料に基づいた運用がされているか、実際の書類はどのように管理されているかといったことを調査します。
5.報告書の作成
すべての調査が終わると、それを報告書にまとめ、経営層に提出をします。
まとめ
知財デューデリジェンスは買収対象となる会社の技術が自社の技術や開発体制、営業体制などと組み合わさったときにどのようなシナジーが得られるかという点を予測する必要があることから非常に難易度の高い調査となります。
まずは権利の登録状況や特許における引用関係、分割出願などの具体的な事実を確認し、そのあとに将来的な観点でビジネスとの組み合わせを考えていく必要があるのではないかと思います。