ニュースの概要
国内鉄鋼最大手の日本製鉄(▶同社の保有知財状況はこちら)はトヨタ自動車(▶同社の保有知財状況はこちら)と、中国の鉄鋼大手「宝山鋼鉄」(▶同社の日本での保有知財状況はこちら)に対し電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)などの駆動モーターに使用する「無方向性電磁鋼板※」の特許権侵害を理由として、両社にそれぞれ約200億円の損害賠償を求める訴えを、東京地方裁判所に提起しました。
また、日本製鉄はこれと同時にトヨタに対して、特許侵害の疑いがある電磁鋼板を使った電動車について日本国内での製造・販売を差止める仮処分も申請しました。
日本製鉄が持っている無方向性電磁鋼板に関する特許
▼[特許番号5447167] 無方向性電磁鋼板およびその製造方法
https://search.tokkyo.ai/pat/PT_2010110851
※無方向性電磁鋼板:
「鉄の磁石につく特性(磁気特性)を著しく高めた」素材である電磁鋼板のうち、「特定の方向に偏った磁気特性を示さないように、鋼板の面内でできるだけランダムに結晶方位をコントロールした鋼板で、モータなど回転機の鉄心に広く使用されています。」(日本製鉄プレスリリースより)。世界的な脱炭素の動きの中で市場拡大が見込まれています。
日本製鉄の主張
・宝山鋼鉄は、中国で製造した無方向性電磁鋼板を日本で販売し、トヨタがその製品をハイブリッド車などに使って販売している
・宝山がトヨタに供給している鋼板の成分や特性などが、日鉄の特許を侵害している。
トヨタ自動車のコメント
・材料メーカー同士で協議すべき事案
・問題の鋼板について、仕入れ先の宝山鋼鉄には特許の侵害がないことを書面で確認した
宝山鋼鉄のコメント
・グローバル企業として各種法規を厳格に順守している
背景
今回訴訟となった当事者、特にトヨタと日鉄には確執が深まっており、今回の訴訟は単なる特許侵害訴訟では片づけられない背景があります。
トヨタ自動車は、1997年以来日本製鉄から電磁鋼板を仕入れていましたが、2020年に入って「ひも付き」と呼ばれる鋼材の価格設定で日鉄の橋本英二社長(当時)が「日本の鋼材価格は国際的に見て理不尽に安い価格で採算がとれない。」と公式に表明する一方、トヨタは日本製鉄以外の調達を考慮に入れるなど両者の軋轢が明らかになりました。
一方、トヨタ自動車は、上記の方針を実行し2020年頃から宝山鋼鉄からも仕入れを開始しており、日鉄とトヨタの溝は深まっていたことが見て取れます。
また、宝山鋼鉄の親会社は鉄鋼世界最大手で国有企業の中国宝武鋼鉄集団で、中国政府と深いつながりがある企業です。これらの状況をみると大企業同士の流通をめぐる本格的な紛争に発展する可能性も否定できず、展開は予断を許さないといえます。
配信元:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211014/k10013307051000.html