2022年12月、株式会社知財塾がアスタミューゼ株式会社の「知財弁理士お仕事ナビ」「Patent Job Agent」を含む知財人材紹介事業を譲り受けることを発表しました。
知財業界で働く方にとって注目度の高いニュースですが、今回の事業譲渡がどのような経緯で行われたのかという点、各社が今後の展開をどう考えているのかという点を伺いました。
ファシリテーター:平井 智之(Tokkyo.Ai) 株式会社知財塾:代表取締役 上池 睦 氏 アスタミューゼ株式会社:代表取締役 永井 歩 氏
平井「本日は、先月公表された知財塾によるアスタミューゼの知財人材事業譲り受けについてお伺いしていきたいと思います。上池さん永井さんよろしくお願いします。」
上池・永井「よろしくお願いします。」
平井「急に飛び込んできたニュースであったのでびっくりしましたし、驚いた方もおられるかと思います。今日は、これまで教育サービスを提供していた知財塾が人材事業を始めることで、知財業界にとってどのような影響があるのか、深堀りさせていただきます。」
知財塾とは
平井「上池さん、自己紹介と会社紹介をお願いします。」
上池「知財塾代表取締役の上池と申します。知財塾は、これまでに未経験者や経験の浅い方向けに知財実務スキルを身に着けるためのゼミ・教育コンテンツの提供をしてきました。いわゆる1対多数のセミナー形式は採用せずに、4名から6名のゼミ形式で、3か月間を一つの期間としています。例えば、3か月間で明細書の演習を5事例やるような形で実戦に即して学ぶことが可能です」
平井「未経験者が中心なのですか?」
上池「そうですね、当初はそのつもりだったのですが、実際には特許明細書作成経験が数年ある方でも受講してくださったり、特許を専門で行っていた弁理士が独立をきっかけに商標のゼミに来てくださったり、企業知財部の方が転職を見据えて明細書作成ゼミに来てくださったりします。法人研修として、複数人まとめて受講いただくようなケースもあります」
アスタミューゼとは
平井「ありがとうございます。それでは、永井さん。自己紹介と会社紹介をお願いします。」
永井「アスタミューゼ社代表の永井です。私たちは知財を始めとした世界各国のイノベーションやテクノロジーのデータを用いた新規事業コンサルティングや各種指標を提供している会社です。最近では知的資本や人的資本に関わるデータ開発を行っており、技術や人の価値を可視化する取り組みをしています。」
平井「ありがとうございます。」
知財塾が人材事業を譲り受けることとなった経緯
平井「最初にお伺いしたいのですが、まず今回はどういう経緯で事業を譲り受けることになったのでしょうか?」
上池「もともとは、取締役の湯浅が、アスタミューゼ社の役員の方との意見交換の中で、事業譲渡の話が出たのがきっかけです。当時は複数社候補がいたようなのですが、ぜひ我々もその候補の中に入れてほしいとお願いをしました。特に、知財塾はすでに教育サービスは始めており実績も評判もよかったのですが、教育の出口として人材のキャリアにまでコミットしたいという話は創業当初から出ていました。すでに知財業界にはいくつか人材紹介会社があるのですが、第三勢力になるよりも、既存の事業であり最大手でもあったアスタミューゼ社の事業を頂けるのであれば、事業のスピードを上げることができると思ったのがきっかけです」
平井「なるほど、確かに教育事業と人材事業は相性もいいですよね。さて、そんな中、いくつか候補が上がっているとのことでしたが、そもそもどういう経緯で事業譲渡をお考えになったのでしょうか?」
永井「もともと私たちは知財に限らず技術データを用いた社会への価値提供ということを考えてきました。特に、ここ数年でデータ基盤構築に対して大きな投資をし、提供するサービスもコンサルティングや指標データ提供に移りつつあります。そうしたなかで改めて会社として何に注力すべきかを考えてポートフォリオを整理したというのがきっかけです。」
平井「なるほど。そのうえで知財塾に決めていただいた要因も少しお伺いしたいのですがいかがですか?」
永井「知財塾であれば教育×人材キャリアのシナジーを発揮できるので、これまで思い入れも強い知財人材事業をいい意味で今まで以上によい事業にしてくださるのではないかという期待がありました。そこで知財塾に選ばせていただいたということです。」
平井「なるほど、シナジーは期待したいところですよね。さて、上池さんにお伺いしたいのですが、実際に知財塾が人材事業を始めるにあたりどのような可能性が広がっていくのでしょうか?」
知財塾は今後どうなっていくか
上池「はい、いくつかありますが、現時点では主に3つの狙いを考えています。
まず一つ目は、求人企業、特許事務所様向けにはこれまでの人材紹介に加えて、知財塾で実務能力を高めていただいた方、スキルアップした方もご紹介できるという点です。これまで、即戦力のみの求人や、短期間で人員を補強したいということで、今すぐにはスキルの面で折り合いがつかなかった方は採用の候補者から外れてしまっていたかと思います。
しかし、半年や一年間、現職の企業に所属をしながら知財塾で実務経験を仮想的な事例で積むことで、採用候補に上るようになると思っています。
二つ目に、これまで採用という方法だけで社内リソースの強化をしていた企業であっても、社内教育を充実させるということで、社内人材の強化を実現するということができるようになります。
最後、三つ目ですが、転職者の方についても、今すぐ転職先が見つからなかったり、希望年収の折り合いがつかない場合でも、知財塾で実務スキルを高めることで年収を高めることができたりします。これは、今まで以上に人生の選択肢が増えることになると思いますので、知財塾が教育と人材紹介両者のサービス提供ができるからこそのメリットだと思っています。」
平井「なるほど。他に、知財塾として新たに始めようとしているサービスなどはあるのですか」
上池「はい、これからは伴走型人材紹介サービスというものを始めようと思っています。これまでは、紹介したら終わりということが一般的な紹介事業だったかと思うのですが、私共は、入社後であってもスキルアップのお手伝いでしたり、メンタルカウンセリングのサポート、入社後のミスマッチを減らすための転職者だけではなく求人企業様との面談などを実施していこうと思っています。加えて、知財塾経由での転職者様向けの定期的なビジネススキルセミナーの開催なども行い、知財業界全体の人材スキルの向上に貢献できるように様々なサービスを提供していこうと考えております」
アスタミューゼの今後の展開は?
平井「逆に、アスタミューゼとしては今回事業を譲渡したわけですが、今後の展開としてなにかお考えのところがあれば教えていただけますか。
永井「私たちの創業した時と違って、知財というのは出願のみならず事業づくりにも貢献するようになりました。それとともに知財人材に求められる要求が高度化・多様化しています。そういった中で、私たちとしては、知財業界のみなさんに弊社サービスをご利用いただき、それを通して多くの企業成長や皆さんの成長に貢献できればと考えております。引き続き知財塾様を始めとして様々な企業様とコラボレーションしていければと思います。」
平井「そうでしたか、今後に注目ですね。それにしても、知財塾上池さんの仰っていた伴走型という表現はとてもいいですね。転職は人生にとっても一大イベントですし、知財業界のような実務スキルが給与と直結しやすい業界では教育サービスを提供する会社が人材事業を始めるということで、知財業界により優秀な方や向上心の高い方が増えていくことにつながることがよくわかりました。
それでは、対談は以上となります。お二人ともありがとうございました。 」
※動画の最後で、上池さんと永井さんより、今後の知財業界に対する一言を頂いております。是非視聴してみてください。