大企業の開放特許を活用して新たな技術を生み出す知財マッチング事業を地方自治体が主体となって行ったことで知られる「川崎モデル」。その対象企業に技術の強みと協業連携の強みを伺います。
今回は、環境に優しいプラスチック素材とそれを原料とする製品を製造・開発する「株式会社ユニオン産業」の代表森川真彦氏にお話を伺いました。
バイオプラスチックの強みと特殊性
ユニオン産業では竹を配合したバイオプラスチックの製造を行っています。震災以降環境の意識が高まってきており、昨今特にストローやポリ袋について問題視されてきている世相も相まってバイオプラスチックが認知されてきましたね。
弊社の素材は52%ほど自然界のものを配合して作ることができるので、燃焼の際の有毒ガスの発生を抑える効果や、CO2を従来と比べて46%ほど削減する効果が実証されています。
竹などを原料にすることで抗菌性を持たせることもできます。インフルエンザウイルスなどに対する抵抗力もデータで実証されていますし、カビの発生なども抑えられるので様々な場面で使うことができる素材になります。
また、素材の開発だけでなく、バイオプラスチックのペレットを作成し金型も自社で製作するなど製品の完成まで一貫して製造を行う設備ももっています。
最近の製造例としては、沖縄の月桃の搾りかすを石鹸トレーにしたり、陸前高田市のコンブの茎をペレットにしてカップを製造したり、SDGsの関係からジーンズをハンガーにしたり、コーヒーの搾りカスを配合して弁当箱を生産したり…本当に様々な土地の地場産業からでた廃棄物や特産物など色々な素材を送ってもらってそれを粉砕して再利用しています。
オリジナル製品に転換したきっかけ
弊社はもともと40年ほど前からプラスチックの成型を行う製造会社でしたが、当初は、お客さんから仕事をもらってから製品・部品を作る受け身の姿勢で営業をしていました。
しかし、そうする中で、当然お客様のコストの範囲でやる必要が生じたり、中国が台頭してくると「メイドインチャイナと同じ値段でできないか」というオファーが来たり…コストの削減の必要性が大きくなってきてしまったんです。そのような状況でも利益率を上げるために、何かできないかを考え、自社のオリジナル製品を作ることに決めました。
オリジナルの新製品の開発を行うにあたっては、発明協会に入会し、特許・商標・意匠を取得しました。自社製品の開発を始めるにあたって独自性を意識していたので、アメリカのスーパーなどに行って「こういうものが日本にもあったら便利だな」などと市場調査からアイディアを考えるようなことも行っていました。
独自技術のパワーとそれを保護する知財
昨今、温暖化や環境意識への高まりを背景に、毎日のようにバイオプラスチックについての情報が発信されています。弊社素材は数あるバイオプラスチックの中でも抗菌や抗ウイルス、耐熱・耐冷などの機能があるので他にはない素材として強みを活かせますし、ここが他にはない差別化のポイントだと思っています。
ものづくりの会社として、これらの技術の保護による会社自体の存続や社内のモチベーションの維持の観点からも、特許・実用新案を維持して、より世の中のためになるものを作ろうと日夜励んでいます。
普段特許・意匠などの取得方針は私が決めて弁理士の先生に出願をお願いするという形で進めており、今現在も実用新案や意匠を事業に合わせて逐次出願するなど知財権保護のための取組みを継続しています。
また近年、製品と別に材料を売ってほしいという依頼も増えてきました。製造に特別な金型が不要で新規設備投資がいらないという弊社素材の強みに着目していただいているのだと思います。
しかし、こういったご依頼の中にはじめから模倣が目的の方もいらっしゃいます。そういった方々に対する防御手段としても特許権などは役に立ちます。ご依頼の過程で「この技術は特許を取っていますか?」等と聞かれることもあり、様々な側面から知的財産権を取得するメリットは大きいと感じます。
多方面での技術提携
本社のある川崎市でのご縁などもあって、弊社の技術に興味を持ってもらった企業様から製品の開発依頼が来ています。結果として海外の企業も含めて一緒に協力していこうというようなお話になることも多いです。例えばホームページなどをご覧になって材料を使いたいというお話や様々な材料で製造をしてほしいという依頼もいただきますのでそれも一種の技術提携かもしれません。
他にもドイツでは、関東学院の先生がドイツの研究所にご紹介いただいた折に、素材自体が抗菌性という付加価値に注目していただいて、産学連携までお話が進み、開発を進めている最中です。
また、アメリカでは、グリーンドットという生分解性素材を開発しているカンザスのベンチャー企業の社長さんが弊社素材の抗菌性に注目して、玩具関係の素材として利用していただけるお話が進んでいます。もともとこの素材は熱に弱いという弱点がありましたが、これを弊社の技術で克服しました。フランスでは既にこの新素材を取り上げていただいています。
他にも、グリーンドットからの紹介で、生分解性エラストマーという素材を日本に紹介する窓口となっています。
「川崎モデル」を利用した開発の経緯と強み
大企業の特許を使って新規事業を生み出す「川崎モデル」を通じて、富士通が保有する内容物が割れにくい梱包材の構造の特許を買わせていただき、これを弊社の素材で作成しています。
現在は成型用のシートを試作している段階で、製品化すれば素材の抗菌化作用で食品を長持ちさせる運用も可能なので、そういった活用を見据えて開発を行っています。
作っている製品の性格上、他社の技術を利用させていただくだけでなく、金型から材料に至るまで様々なご要望を頂いて製品を一から作成することも多いです。
一口に素材の開発といっても、最適な配合などを探すために何度も試作を繰り返します。不純物が多ければ取り除く必要があるなど材料ごとに製品化の難度や製品化のためのアプローチも異なり、さらに形状のアイディアといった成型の段階、耐熱温度など実用化の段階とすべての段階で様々な試行錯誤をしますから、その甲斐あって他社技術の利用も含めた他社との共同開発にも慣れたのかもしれません。
こういった試作は地道な作業でどうしても時間がかかるものもありますが「次は何を試そうか」ということを考えるのが楽しみでもありますし、一つ一つのご依頼が勉強になります。
環境問題が進行する中での今後の展開
今後世界のトレンドとしては、開発が進み単なる植物配合プラスチックから100%植物由来のプラスチックなどへ主役が移っていくでしょう。こういう環境の意識についてはヨーロッパが5年も10年も進んでいますので参考になります。現にヨーロッパの方からそういった作成の依頼を受けて開発を進めています。
他にも、海洋プラごみを凝縮するとアメリカの国土と同じくらいになるともいわれているほど海洋プラの廃棄が社会的な問題となっています。それを解決するために海洋プラの材料を使って作った「海で分解されるルアー」が11月に発表されます。
また、まだ決定しているわけではありませんが、弊社の素材に着目して研究を行っていただいた結果、ある特色を発見したために共同開発を行う話も来ています。
このように燃焼時のCO2削減以外にも多方面での素材開発にも取り組んでいるので、この技術も国内に広く伝えていければなと思っています。
ものづくりは「興味」と「楽しみ」
ものづくりや知財は、興味を持たなくては駄目なんです。色々なものをみて「これは何とかならないかな」という気付きから一歩一歩進んでいくことによっていいアイディアが浮かんでくるものなんです。
ですから、興味を持って楽しみながら一歩一歩考えていくということが大事になっていくと思います。
これから地球温暖化に関してはどんどん厳しい時代に突入していきます。そのような中で少しでも次世代に残せるものを作るためにステップバイステップでものごとを進めていくのが大事ですよね。