法定通常実施権とは
実施とは、ひとことでいうと、特許を使用することをいいます。
特許法第2条3項では、物や方法の発明であれば、その物や方法を使用し、物であれば譲渡したりといった行為、物を生産する方法の発明であれば、その方法の使用やその方法によって生産した物を使用することが「実施」であるとされています。
法定通常実施権とは、法律で定められた事項に基づき、特許権者や専用実施権者の許諾なくして発生する通常実施権をいいます。
では、どのような場合に法定通常実施権が発生するか見ていきましょう。
法定通常実施権が発生する場合
法定通常実施権が成立する場合は、特許法に6つの場面が定められています。
- 職務発明についての使用者の法定通常実施権(特許法35条1項)
- 先使用による法定通常実施権(同法79条)
- 取戻権による特許権の移転登録前の実施による法定通常実施権(同法79条の2)
- 無効審判の請求登録前の実施による法定通常実施権(中用権・同法80条1項)
- 意匠権の存続期間満了後の法定通常実施権(同法81条)
- 再審による特許権の回復前の実施等による法定通常実施権(同法176条)
これらの条文は、ページ下部にまとめていますので、参照ください。
なぜこれらの場合に法定通常実施権が認められるか、各項目について簡単に説明していきます。
1.「職務発明についての使用者の法定通常実施権」は、
職務発明がなされるまでに、使用者である企業などが施設を貸与したりと発明の完成に直接又は間接的に貢献をしていることから、使用者等に通常実施権を設定されています。
2.「先使用による法定通常実施権」は、
その特許が出願される前から、同一の発明について、他社の特許権を侵害する意図なく実施をしている場合といった限定的な場面において通常実施権を認めています。
3.「取戻権による特許権の移転登録前の実施による法定通常実施権」は、
冒認等を理由に特許が真の権利者に移転することとなった場合、それまでに特許を実施している者は、真の権利者から権利行使されることとなってしまうため、他社の特許権を侵害する意図なく実施をしている場合に設定されます。
4.「無効審判の請求登録前の実施による法定通常実施権」は、
特許を無効にされた現特許権者に発生する法定通常実施権で、無効事由に該当することを知らなかった者に設定されます。
5.「意匠権の存続期間満了後の法定通常実施権」は、
意匠権と特許権が同時に存在していたが、意匠権の存続期間が満了し、特許権がなお存続しているときに、意匠権者が自己の意匠を実施することができなくなることを懸念して設定されます。
6.「再審による特許権の回復前の実施等による法定通常実施権」は、
無効審判などによって特許権がないと信じてその特許に関する実施をしていた者が、再審により特許権が回復してしまった際に無断で特許の実施ができなくなってしまうことを回避するために設定されます。
対価を払う必要性がある?
これらの権利については条件が充足することで通常実施権を発生させる、非常に重要かつ強力なものですが、全ての場面において対価を支払うことなく無償で権利を発生させるものではありません。
無償での通常実施権が認められるケース
特許法では、上記の、
1.「職務発明についての使用者の法定通常実施権」
2.「先使用による法定通常実施権」
6.「再審による特許権の回復前の実施等による法定通常実施権」
については公平の観点から無償での通常実施権を認めています。
対価を支払う必要があると定められているケース
一方、
3.「取戻権による特許権の移転登録前の実施による法定通常実施権」
4.「無効審判の請求登録前の実施による法定通常実施権」
5.「意匠権の存続期間満了後の法定通常実施権」
では、対価を支払う必要があると定められていますので注意が必要です。
まとめ
今回解説した法定通常実施権は、権利が発生すると特許を実施できるという非常に強力な権利です。特許法に記載されているので条文を確認しておきましょう。