特許が拒絶されたら
特許は、審査官が審査を行います。審査官は特許の是非を判断するプロですから、特許査定あるいは拒絶査定をするにあたって厳正な審査をしています。
しかし、何らかの行き違いがあって自分の特許が認められなかったら?あるいはほかの人が自分の特許を申請してしまったら? 特許法はこういったときに出願人などを救済するため以下の制度を設けています。
裁判外手続
拒絶査定不服審判
拒絶査定を受けた出願人は、原則として、拒絶査定の謄本の送達日から3ヶ月以内であれば、拒絶査定不服審判を提起し、拒絶査定の取消と特許査定を求めることができます(特許法第121条)。これが提起されると、審判官は拒絶審決が妥当か、それとも特許が認められるべきかを審理します。
拒絶査定不服審判では、審査で用いた書類を改めて提出する必要はありません(不服審判は特許審査の一部と考えられているからです)。
また、この段階において審判請求と同時に明細書等の補正をすることができますが、補正があった場合は、審判官の審理に先立って、元の審査官が再度審査を行うものとなっています(これを前置審査といいます)。審判官の負担を減らし、審判を促進することを目的としています。
なお、行政法に詳しい方は、特許査定が行政処分であることから行政訴訟法上の取消訴訟を提起できることに気づくかもしれません。しかし、特許の拒絶査定は専門性が高く、通常の裁判手続では測れない部分も多いので、取消訴訟ではなくこちらで争うような制度設計がされています。
特許訂正審判
特許の登録後に特許権者本人が、特許の範囲又は図面などを訂正する手続です。かつては下記の無効審判の対抗手段として使われていましたが、現在はこういった利用が禁止され(「訂正の請求」という手続に代わりました)、無効理由の存在、誤記、記載不明瞭の存在を訂正する手続となっています。
特許無効審判
本来拒絶されるべき特許が何らかの理由で登録されてしまっているときに、それを放置しておくと本来は自由に使えることができるはずの発明の実施を不適切に保護していることとなるため特許法の目的である産業の発達を阻害してしまうこととなります。そこで特許無効審判によって特許の無効を主張することができます(特許法第123条)。
この制度は紛争当事者間の紛争を解決することを念頭に置かれているともいわれていることから無効審判を請求できるのは、特許侵害の警告を受けている人や、その発明を実施している人、ライセンス料の支払いを要求されている人などの「利害関係人」に限られます。
無効が認められると特許は登録時までさかのぼって無かったことになる一方、無効が認められなかった時は、無効を申し立てた人とその関係者は、同様の事実や証拠を用いて無効主張することができなくなります。
特許異議の申し立て
特許を登録時までさかのぼって無かったことにできる制度です。
特許要件である新規性や進歩性がない場合、既に同様の特許が出願されている場合である先願に違反している場合などが特許異議の対象となっています。
前述の無効審判と似ていますが、こちらは誰でも行える代わりに申し立て事由が一部制限されており、形式的な要件違反や、権利帰属に関する部分に関しては申立ての対象外となっています。
また、請求期限も特許公報が発行されたときより6カ月間と制限されております。
審理の結果、特許を取り消すべきと判断された場合には特許権者に取消理由が通知され、意見書を提出する機会が与えられることとなります。
裁判手続
審決取消訴訟
上で挙げた「拒絶査定不服審判」、「特許訂正審判」、「特許無効審判」の各種決定(ここでは「審決」といいます)について、取消しを求める訴訟です。
通常の裁判と異なり、知的財産高等裁判所に対して訴えます。各種審決が通常の裁判の地裁判決に相当する位置づけになっているわけです。
ここで、審決の取消しが認められると、その審決はなかったことになり、再度審決を求める手続きを行うことができます。
おわりに
特許の拒絶や取消に関する手続、おわかりいただけたでしょうか。もちろん、このような手続には縁がないに越したことはないです。しかし、万が一の時になったら、自らの権利を守るため、これらの手続を思い出してみてください。