特許について学んでいくと、「分割」というキーワードを目にすることはありませんか?
「分割」という言葉からは、特許の権利自体を2つ以上に分けるというイメージを受けるかもしれません。
分割とはどのようなもので、分割することでどのような効果を得られるのでしょうか。
今回は特許の分割について説明していきます。
特許の分割とは?注意点も
分割出願とは、2つ以上の発明を包含する特許出願の一部を1又は2以上の新たな特許出願とすることです。
注意点として、「特許出願書類の明細書などに2つ以上の発明が記載されている場合」に限られます。
つまり、特許出願を行う際の明細書に記載されている内容でなければ分割出願ができません。
分割が必要な場面
なぜこのような仕組みが必要なのでしょうか。そのポイントは「拒絶理由の解消」にあります。
分割は、特許審査において拒絶理由通知がなされた場合に効果を発揮します。
たとえば、拒絶理由通知で、特許請求の範囲に記載した請求項のうち、一部の請求項に拒絶理由があると指摘がされていた場合を想定してください。
もし、とにかく早くこの技術を権利化したいということであれば、拒絶理由を指摘された請求項について削除することで権利化を図ることもできます。そして、拒絶理由を指摘された請求項について新たな分割出願をおこない、意見書を提出するなどし、じっくりと権利化を目指すという手段がとり得ます。
このように、単一性要件の違反など特許要件を欠いていることを理由になされた拒絶理由の解消のために、請求項に記載された発明の一部を抜き出し、新たな分割出願とする方法が考えられます。
また、前述のような拒絶理由の解消という場面とは違う用途として、権利化を悩んでいる事項について、とりあえず明細書にその内容を記載しておき、後ほど分割し、権利化を図るといった戦略的に行う場合もあります。
分割が認められるための要件とは
分割が認められ、原出願時において特許出願があったものとされるには、以下の要件を充たしている必要があります。
①原出願と分割出願の出願人が、特許出願の分割時において一致していること
②特許出願の分割をすることができる時期にあること(原出願の願書に添付した明細書等について補正をすることができる時又は期間内である場合、特許査定の謄本送達日から30日以内(特許権の設定登録前に限る)である場合、そして最初の拒絶査定の謄本送達日から3月以内のいずれかの場合)
分割が認められるとどうなるか(分割の効果)
分割要件が満たされている場合は、分割出願は、原出願の時にしたものとみなされます。
一方で、分割要件が満たされていない場合は、分割出願は、原出願の時にしたものとはみなされることなく現実の出願時にしたものとされます。
もちろん、分割出願の形式的要件が満たされてない場合は、出願自体が却下されます。
まとめ
特許は、権利化をすることでその発明を独占的に利用できるようになる非常に強力な権利です。拒絶理由通知がなされた場合には分割をすることで対応ができないかを考え、自社の事業を有利に展開するための肥やしとしてください。
<参考条文:特許法 第44条(特許出願の分割)>
第四十四条 特許出願人は、次に掲げる場合に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。
一 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる時又は期間内にするとき。
二 特許をすべき旨の査定(第百六十三条第三項において準用する第五十一条の規定による特許をすべき旨の査定及び第百六十条第一項に規定する審査に付された特許出願についての特許をすべき旨の査定を除く。)の謄本の送達があつた日から三十日以内にするとき。
三 拒絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があつた日から三月以内にするとき。
2 前項の場合は、新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなす。ただし、新たな特許出願が第二十九条の二に規定する他の特許出願又は実用新案法第三条の二に規定する特許出願に該当する場合におけるこれらの規定の適用及び第三十条第三項の規定の適用については、この限りでない。
3 第一項に規定する新たな特許出願をする場合における第四十三条第二項(第四十三条の二第二項(前条第三項において準用する場合を含む。)及び前条第三項において準用する場合を含む。)の規定の適用については、第四十三条第二項中「最先の日から一年四月以内」とあるのは、「最先の日から一年四月又は新たな特許出願の日から三月のいずれか遅い日まで」とする。
4 第一項に規定する新たな特許出願をする場合には、もとの特許出願について提出された書面又は書類であつて、新たな特許出願について第三十条第三項、第四十一条第四項又は第四十三条第一項及び第二項(これらの規定を第四十三条の二第二項(前条第三項において準用する場合を含む。)及び前条第三項において準用する場合を含む。)の規定により提出しなければならないものは、当該新たな特許出願と同時に特許庁長官に提出されたものとみなす。
5 第一項第二号に規定する三十日の期間は、第四条又は第百八条第三項の規定により同条第一項に規定する期間が延長されたときは、その延長された期間を限り、延長されたものとみなす。
6 第一項第三号に規定する三月の期間は、第四条の規定により第百二十一条第一項に規定する期間が延長されたときは、その延長された期間を限り、延長されたものとみなす。
7 第一項に規定する新たな特許出願をする者がその責めに帰することができない理由により同項第二号又は第三号に規定する期間内にその新たな特許出願をすることができないときは、これらの規定にかかわらず、その理由がなくなつた日から十四日(在外者にあつては、二月)以内でこれらの規定に規定する期間の経過後六月以内にその新たな特許出願をすることができる。