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パテントマップとIPランドスケープの違いとは?

知財、特に特許に携わる人には耳なじみのある言葉になってきた「IPランドスケープ」。しかし、いったい何を指す言葉なのか、どのように実践するのか、パテントマップを使った知財分析とはどのように異なるのかいまだ完全に認知されているとは言えない状況でしょう。

今回はこれらのワードをそれぞれ見ていくことで、両者の違いを探っていきたいと思います。

パテントマップとは

まずパテントマップとは、「特許情報を分析し、その動向等をビジュアル化したもの」と定義されています(「特許流通支援チャート(https://www.inpit.go.jp/katsuyo/archives/archives00007.html)」より引用)。

すなわち知財の情報を図示することで、概況を把握するための手段になります。

代表的なパテントマップ4選

「パテントマップ」といってもそのビジュアル化の方法は様々です。工業所有権情報・研修館(INPIT)はマッピングについていくつかの手法の例を紹介しています。(以下太字は筆者)

ランキング分析

「出願人・発明者・国・技術分野など、主要項目について件数をもとにランキングで表示。特定の業界における主要な企業(リーディングカンパニー)を把握したい時などに利用。

ランキング分析

課題・解決分析

「縦軸・横軸にそれぞれ課題・解決手段の各項目を表示し、交差する点にその件数を表示。交差する点の件数から、未開発技術の発見や研究開発テーマの選定などの参考情報として利用。

課題・解決分析

引用・被引用分析

「他社の出願について、その引用・被引用件数を表示。引用回数や出願年の情報から特許の重要性(基本特許)の保有状況等を把握する時等に利用。

引用・被引用分析

相関関係分析

「特定の業界での共同出願の件数を マトリクス状に表示。特定の業界における企業間の連携度合いを把握する時等に利用。

相関関係分析

この他にもいくつかの手法が取り上げられています。共通して言えるのは特許の分野や出願人、出願年度等の複数の特許情報を組み合わせて図示することで全体の技術傾向を理解するための手法であるということです。

出典:「特許情報分析による 中小企業等の支援事例集」INPIT(https://www.inpit.go.jp/content/100872508.pdf)

IPランドスケープとは

それに対してIPランドスケープの定義は人によってかなり差があるものの、特許庁では「経営戦略又は事業戦略の立案に際し、(1)経営・事業情報に知財情報を取り込んだ分析を実施し、(2)その結果(現状の俯瞰・将来展望等)を経営者・事業責任者と共有すること」と定義されています。

(『「経営戦略に資する知財情報分析・活用に関する調査研究」について』(https://www.jpo.go.jp/support/general/chizai-jobobunseki-report.html)より引用)

IPランドスケープの定義は本当に各所で様々に議論されており、その幅も広いものではあるのですが、上記定義によれば経営戦略・事業戦略立案に際する分析・共有手法のことを指すようです。

詳細はこちらの記事をご覧いただければと思いますが、

大手企業が取り組むIPランドスケープとは (legalsearch.jp)

知財の取得の要否を超え、事業の戦略策定まで踏み込んだ分析を行えることが従来の知財調査・分析と異なる強みです。

企業などの個別事情により、その手法・進め方は異なり、当事者の状況に応じて様々なIPランドスケープが行われています。

パテントマップとIPランドスケープの違いは?

ここまでごく簡単ですが両者の定義を見てきました。いずれも特許情報を分析等する手法であり両者の違いはそれぞれの着眼点のように見えてきます。

例えば「農業」をしようと考えたとき「トマト」と「トラクター」どちらを採用すればいいだろうと比較する方は少ないと思います。

今回でいえば「知財の状況から企業の方向性等を決める」ことが「農業」にあたり、目的を果たすための手段(「トラクター」)が「パテントマップ」、目的となる作物(「トマト」)が「IPランドスケープ」のように、それぞれ着目する観点が異なるといえるでしょう。したがって、「パテントマップを用いてIPランドスケープに沿った戦略立案を行う」のような説明は成り立ちえますし、それぞれの強みを生かしつつ、その場に合った手法で調査を行う必要があるといえます。

まとめ

パテントマップとIPランドスケープはそれぞれ知財の分析の手法にかかわる用語ですが、これらは比較されるものではなく、それぞれがその強みを生かして知財に携わる人たちの目的実現に資するためのツールといえるでしょう。

知財調査・分析にあたっては手段と目的を適切に設定する必要があり、その意味でパテントマップとIPランドスケープはいずれも強い味方になってくれるはずです。