実用新案権とは、「物品の形状、構造又は組合せに係る考案」(実用新案法第1条)を保護するための権利です。例えば、ベルトに取り付けられるスマートフォンカバーの形状に関する考案が、実用新案権の保護対象になると考えられます。
ここにいう「考案」とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作」(実用新案法第2条第1項)のことです。特許法における「発明」(特許法第2条第1項)と対比して、小発明とも呼ばれます。
また、「考案」には「物品の形状、構造又は組合せに係る」という限定が付されているため、特許権の場合とは異なり、「エンジンの燃費を向上させる方法」などの方法の考案は、実用新案権の保護対象には含まれません。
実用新案権のメリット・デメリット
次に、実用新案権を取得する場合の一般的なメリット・デメリットを、特許権を取得する場合と対比しながら見ていきましょう。
【メリット】
取得費用が安い
通常、実用新案権の取得費用は、特許権の取得費用よりも安くなります。
これは、実用新案権の審査に、考案の新規性などを審査するいわゆる「実体審査」は行われず、出願書類に不備がないか、手数料が納付されているかなどを形式的に審査する「方式審査」のみ行われるためです(実用新案法第14条第2項)。
また、特許権の場合は、申請書類の修正や審査結果に対する反論・書類補正のために弁理士を利用することが多く、その費用が掛かることも理由の一つです。
申請から登録までの期間が短い
実用新案権の場合は、申請してから登録までの期間が、特許権の場合よりも短くて済みます。特許権の場合は、申請から取得までに1年以上の長い期間を要するのが通常であるのに対し、実用新案権の場合は、特に問題がなければ申請から2~3カ月で取得することも可能です。
実用新案登録に基づく特許出願が可能
実用新案権を取得した場合、自分の実用新案登録に基づいて特許出願をすることができます(特許法第46条の2)。ただし、実用新案登録の出願日から3年が経過していたり、第三者から実用新案技術評価書(権利の有効性を特許庁が評価したもの)の請求があった旨の最初の通知を受けた日から30日を経過していたりすると、上記のような特許出願をすることができません。
【デメリット】
権利の存続期間が短い
実用新案権の存続期間は、特許権の存続期間よりも短くなっています。実用新案権の場合は、実用新案登録出願の日から10年とされている(実用新案法第15条)のに対し、特許権の場合は、原則として、特許出願の日から20年とされています(特許法第67条1項)。
迅速な権利行使が困難
特許権の場合は、その侵害や侵害のおそれがあれば、差止請求(特許法第100条)や損害賠償請求(民法第709条)等をすることが可能です。一般的には、こうした請求をする前に、侵害者に対して特許権の侵害を通知するための警告書を送付しますが、この警告書の送付が必須というわけではありません。
これに対して、実用新案権の場合は、取得のための審査をパスしたからといって、直ちに上記のような請求ができるわけではありません。請求の前に、実用新案技術評価書を相手方に提示して警告する等の措置が必要となります(実用新案法第29条の2)。このような措置が必要とされるのは、実用新案権の取得のための審査においては当該権利の有効性について判断されないためです。
実用新案権を取得する実益
実用新案権には上記のようなデメリットがあるため、実用新案権を取得する実益はないと考える人も少なくありません。実用新案技術評価書の取得には別途の審査が必要であり、ここまですると特許出願の場合と費用も負担も大差がない、と言われることもあります。
これに対して、実用新案権の取得が有益となる場合があると考える人もいます。例えば、「思いついた製品が売れるかどうかはまだ分からないが、一応権利取得はしておきたい。ただ、あまりコストはかけたくない。」という場合には、まずは実用新案権を取得しておき、製品が売れる見込みが立てば特許出願に切り替える、という対応が有益だというのです。
このような主張をする人は、実用新案権を取得していれば、その行使に必要となる実用新案技術評価書を取得していなかったとしても、侵害に対する一定の抑止効果がある、と考えているようです。
まとめ
たしかに、実用新案権の取得については、その実益を疑う意見が少なくありません。ただ、実用新案権には、特許権とは異なる特徴があることも確かです。実用新案の制度を利用する可能性を初めから否定するのではなく、まずは自分が置かれた状況を分析し、本当に実用新案権の取得を選択肢から除外すべきなのか、今一度検討してみてはいかがでしょうか。