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海外の商標登録とは~「松阪牛」問題と国際商標出願~

海外で名前を使えない商品

松阪牛、馬路村のゆず、讃岐うどん、今治タオル…これらの商品は、言わずと知れた日本が誇る一級品であり、地域の名前を冠した伝統的な名産品です。実は、これらの製品にはそれ以外にもある共通点があります。それは、海外において同一又は類似の製品名や地名が本来の権利者以外に「商標」として登録されていることです。

商標は国ごとに管理されていますから、その国ごとに出願・登録が必要となります。また、多くの国における商標登録制度は、先に出願した者に商標権を付与する「先願主義」が採用されており、海外で商標が登録されてしまうと後からこれを取り消すことは非常に困難です。

その結果として、海外で商標登録されてしまった名称は、その国では利用できなくなってしまいます。たとえ現実に名産品を生産している人であっても、さらにはたとえ日本で商標をとったものであってもこれは変わりません。

このことは、日本製品の海外輸出の際に大きなブレーキとなることはもちろん、勝手にとられた「商標」を利用した海外製品(当然、品質やマーケティングは生産者側でコントロールできません)の対策にも力を割かなくてはいけなくなることを意味しています。

これらの事態を防ぐには…?

本稿では、このような第三者による出願(「冒認出願」といいます)の是非には触れませんが、確かなことは、海外で登録されてしまった「商標」をその国において利用するためには、以下に言うように非常に大きなハードルがあるということです。

まず、正規の商標を取得して利用するためには、その国の手続に沿って不服申し立てをすることが考えられますが、認められにくいのが実情です。現に「松阪牛」などは、日本の団体の不服申し立てが中国で退けられています。他には、商標権者から買い取る、商標権者からライセンスしてもらうなどの手段が考えられますが、相応の資金がかかることは覚悟しなくてはなりません。

そうすると、出願に先立って、国際展開を見据えた商標戦略をとるのがもっとも労力のかからない対策というほかない実情が浮かび上がります。

では、海外に商標出願をするにはどうすればよいでしょうか。

海外で商標を取るためには

海外の商標をとる手続で真っ先に思い浮かぶのは、その国で正規の手続を踏んで出願することです。もちろんこれは日本の企業などでもおこなえますが、その国にあった手続をする必要があり、言語面、手続面、専門家の選出面などから多大な労力がかかります。

そこで、現在ではマドリッド協定(英名のマドリッド・プロトコルを略して「マドプロ」と呼ばれています)という国際協定に加盟している国に対しては、一括の手続で商標登録できるようになりました(出願時に出願する国を選べます)。もちろん、国内出願と比べて手続や料金は加重されますが、105以上の国または地域(2019年11月時点)に対して一度に出願が可能となるのはうれしい限りですね。なお、マドプロの加盟国は以下の特許庁ウェブサイト

https://www.jpo.go.jp/system/trademark/madrid/madopro_kamei.html)を確認してください。

なお、マドプロは日本で登録済みまたは出願中の商標のみが対象となります。つまり、海外に商標登録をしたい場合、①日本で商標出願手続をする、➁マドプロを利用して他の国へ商標出願を行うという段階を踏む必要があります。

おわりに

海外各国で商標をとることの重要性、わかっていただけましたでしょうか。

一度海外で商標が登録されてしまうと、基本的には取り返しがつきません。日本の製品は、高品質であるがゆえに常に世間の耳目を集めていますから、海外の方々もこれをマネタイズする方法を考えることでしょう。自らが生産し、あるいは開発した製品のブランドを守るためにも、国際商標出願を含めた長期的・多角的な商標戦略をとることを視野に入れていただければ幸いです。